エンジニアも無関係じゃない?ホワイトカラーエグゼンプションとは
「ホワイトカラーエグゼンプション」という言葉を聞いたことがありますか?
ホワイトカラーエグゼンプションは「ホワイトカラー労働時間規制適用免除制度」とも呼ばれ、“一定の要件を満たす正社員のホワイトカラー(非現業職)には、賃金を労働時間に対して支払うのではなく成果に対して支払う”という制度です。
つまり、この制度を適用される人たちは「1日8時間、週40時間」という労働基準法(労働法)の規制から外れます。
その代わり、目標の達成度合いや成果の大きさによって報酬が左右されることになるのです。
労働時間と報酬がリンクしなくなるため、割増賃金である残業代の支払いもありません。
ホワイトカラーエグゼンプションの目的は、だらだらと仕事をしない労働生産性の向上にあります。
似た言葉に「裁量労働制」がありますが、これは「専門知識が必要な高度な仕事をする労働者(一定の年収がある)を、労働時間規制から外す」制度です。
日本でも2007年頃から何度も導入が検討されてきましたが、これまでは労働界や野党からの強い反発、過労死の懸念もあり法案提出には至りませんでした。
2015年には、第二次安倍政権の肝いりで通常国会に日本版ホワイトカラーエグゼンプション制度である「高度プロフェッショナル制度」の新設を含む、労働基準法改正案が提出。
結果的に、こちらも2017年9月に廃案になっています。
しかし、2018年の働き方改革関連法案にも高度プロフェッショナル制度が含まれ、ついに可決。
最終的に労働政策審議会においての議論を経て、厚生労働省令で定められます。
施行予定は2019年4月です。
どんな人が対象に?
では、制度対象者はどんな人なのでしょうか。
高度プロフェッショナル制度の適用条件は決まっていますが、まだ不透明な部分が多くあります。
以下の条件が付加される見通しです。
- 年収1,075万円以上
- 高度の専門的知識等がある人
- 本人の同意
- 導入企業は制度使用者の健康確保のため、以下の(1)~(3)いずれかの制度を導入する
(1)労働・在社時間の上限を決める
(2)勤務間インターバル(一定の休息時間を確保)の確保
(3)年間休日104日間、かつ4週間で4日以上の休日確保
(4)臨時の健康診断の実施
- 労使委員会決議
以上の条件から、すべての労働者が対象労働者ということではないようです。
- 株式・債券などのディーラー
- アナリスト
- コンサルタント
- 研究開発職
- 投資銀行の資金調達やM&A担当者
- 金融商品の開発担当者
などが対象と想定されています。
いずれも「高度な専門的知識を要する」「時間と成果のつながりが強くない」と考えられる職種です。
そして、管理職を管理監督者と位置付けている場合、労働時間の適用除外者になり残業代も発生しません。
つまり、高度プロフェッショナル制度から除外される可能性があります。
ただ、部下のいない名ばかり管理者は、対象になる可能性があるので注意が必要です。
新制度には異論も
新制度「高度プロフェッショナル制度」には、労働時間に縛られることなく、成果によって報酬や待遇が決まる「生産性の高いプロフェッショナルの処遇改善」と「企業の生産性向上に貢献する」という明るい面があります。
しかし、運用の仕方を誤ると、実質的な賃下げと長時間労働が温存されるという暗い面も否定できません。
これからも賛成、反対の対立は続きそうです。
肯定的な意見
- 成果で報酬が決められれば企業の生産性向上につながる。
- 生産性が低い人材のほうが高賃金になる不公平感の是正になる。
- 経営者は成果を出さない社員に余計な給与を出す必要がなくなる。
- 成果を達成すれば職務時間が短く、個人が自由に使える時間が増える。
否定的な意見
- 成果目標の設定が正しく行われなければ長時間労働・時間外労働を助長する恐れがある。
- 労使関係は対等ではないので、本人同意を無理強いされることがあるかもしれない。
- 今後、適用職種が拡大したり年収規制が下振れしたりする可能性への懸念。
キャリアを考えるきっかけに
高度プロフェッショナル制度をきっかけに、日本にも本格的な成果主義が根付くことになるかもしれません。
そうなると、ホワイトカラー労働者として会社に所属していることが、安定した収入に結びつくとは限らなくなります。
組織の中でキャリアアップを目指すより「フリーエンジニアとして独立したほうが有利」と考える人が増えるかも知れません。
少なくとも新制度の導入は、残業代が「もらえる」か「もらえない」ということだけに留まらず、私たちの働き方の将来に大きな影響をもたらすことになるのは確かです。
高度プロフェッショナル制度は労働市場の改善につながるのでしょうか。
これを機会にエンジニアとしてのキャリアプランを見直してみるのも、ひとつの手かもしれません。